マツモ(松藻、学名: Ceratophyllum demersum)は、マツモ目マツモ科に属する水草の1種であり、マツモ属のタイプ種である。根を欠き、水中を浮遊または特殊化した枝で水底に固着している。1–2回二叉分岐した葉が輪生している(図1)。この葉が松葉に似ていることから「マツモ」の名がついた。金魚藻 (キンギョモ) と総称される植物の1種であり、しばしばアクアリウムで観賞用に栽培される。
食用とすることがある海藻のマツモ(Analipus japonicus)は褐藻綱に属する藻類であり、被子植物に属する上記のマツモとは全く異なる生物である。以下は被子植物に属するマツモについて概説する。
特徴
マツモは淡水の水中に生育する多年生の水生植物である。根を欠き、ふつう水中を浮遊しているが、ときに枝が変化した構造(仮根ともよばれる)によって水底に固着している。茎は長さ20–300センチメートル (cm)、盛んに分枝する。節に5–10枚の葉が輪生する(下図2a, b)。葉は長さ8–35ミリメートル (mm)、1–2回(まれに3回)二叉分岐して線状の裂片になり、縁にはトゲ状の鋸歯がある(下図2b)。同属の他種にくらべて葉が強壮であるが、葉の大きさや硬さは環境条件による変異が大きい。秋になると茎の先端に葉が密集して越冬芽(殖芽、長さ 2–6 cm)となり、これが離脱して水底に沈み、越冬する。また植物体の分断化による栄養繁殖も活発に行う。
日本での花期は5-8月だが、1年を通じて開花しない集団もある。花は単性で雌雄同株、雄花と雌花が同一の茎の別の節につくが、雄花が先に形成される。花は直径 1–3 mm、12枚ほどの苞葉(花被片ともされる)で囲まれる。雄花は10個ほどの雄しべをもつ(上図2a, c)。雌花には長い花柱をもつ1個の雌しべが存在する(上図2a)。花粉は水中を浮遊し、雌しべに達する(水中媒)。
果実は痩果、暗緑色から赤褐色、長楕円形で長さ 3–6 mm、ふつう先端に1本(宿存性の花柱)、基部両側に1本ずつ、計3本の長いトゲ状突起(長さ 0.1–14 mm)がある (上図2a)。ニュージーランドなどでは種子形成が見つかっていない。染色体数は 2n = 24, 38, 40, 48, 72 が報告されている。
分布・生態
南北アメリカ、アフリカ、ユーラシア、東南アジア、オーストラリア北東部など世界中の熱帯から温帯域に分布している。またニュージーランドなどでは外来種として問題視されている。日本では北海道から沖縄まで報告されている。
湖沼、ため池、水路などに生育し、ふつう水中を浮遊している(上図3)。
保全状況評価
マツモは日本全体としては絶滅危惧種に指定されていないが、下記のように地域によっては絶滅のおそれが高いとされる。以下は2020年現在の各都道府県におけるレッドデータブックの統一カテゴリ名での危急度を示している(※埼玉県・東京都・神奈川県では、季節や地域によって指定カテゴリが異なるが、下表では埼玉県は全県のカテゴリ、東京都・神奈川県では最も危惧度の高いカテゴリを示している)。
- 絶滅種: 東京都
- 絶滅危惧I類: 群馬県、神奈川県※、長野県、鹿児島県
- 絶滅危惧II類: 福島県、埼玉県※、千葉県、新潟県、富山県、石川県、福井県、奈良県、熊本県
- 準絶滅危惧: 北海道、茨城県、岐阜県、三重県
またマツモと別種または同種とされるヨツバリキンギョモ (ヨツバリマツモ、ゴハリマツモ)(下記参照)も愛知県、長崎県で絶滅危惧I類、佐賀県で準絶滅危惧、滋賀県、熊本県、沖縄県で情報不足に指定されている。
人間との関わり
アクアリウムの観賞用水草として使用されることが多く、栽培は容易。金魚藻(きんぎょも)と総称される水草の1種である。金魚藻とよばれる水草には他にハゴロモモ(フサジュンサイ、カボンバ; ハゴロモモ科)、オオカナダモ(トチカガミ科)、フサモ(アリノトウグサ科)などがあるが、これらはいずれも互いに遠縁の植物である。
分類
マツモは、マツモ属のタイプ種である。。また植物の学名の出発点であるリンネの『植物の種』(1753年) において記載された植物の1つである。
種内分類群
マツモは形態変異が大きく、以下のような種内分類群が認識されている(下表1)。
Ceratophyllum platyacanthum
Ceratophyllum platyacanthum はマツモに類似しているが、果実の上部に花柱由来のトゲ (stylar spine) に加えてトゲ (facial spine) をもつ点で異なる。Ceratophyllum platyacanthum subsp. platyacanthum はトゲに翼状突起が発達しているが、Ceratophyllum platyacanthum subsp. oryzetorum(ヨツバリキンギョモ)は下方2本、上方2本のトゲが目立つ。後者は日本からも報告されている(下表2)。C. platyacanthum はマツモと同種とされることも、別種とされることある。マツモと C. platyacanthum は同所的に出現することもある。
分子系統学的研究からは、Ceratophyllum platyacanthum は系統的にはマツモに含まれることが示されている。C. platyacanthum の染色体数は72と報告されており、おそらく6倍体起源であると考えられている。このことから、C. platyacanthum は倍数化によってマツモから生じたと考えられている。
脚注
出典
外部リンク
- 松岡成久 (2014年3月21日). “マツモ”. 西宮の湿生・水生植物. 2021年6月18日閲覧。
- “マツモ”. 琵琶湖生物多様性画像データベース. 滋賀県琵琶湖環境科学研究センター. 2021年7月22日閲覧。
- “Ceratophyllum demersum”. Plants of the World Online. Kew Botanical Garden. 2021年7月13日閲覧。(英語)
- GBIF Secretariat (2021年). “Ceratophyllum demersum”. GBIF Backbone Taxonomy. 2021年6月18日閲覧。(英語)
- Flora of China Editorial Committee (2010年). “Ceratophyllum demersum”. Flora of China. Missouri Botanical Garden and Harvard University Herbaria. 2021年7月13日閲覧。(英語)




